坂本和靖「パラサイト女性 優雅な生活遠のく」

『日本経済新聞』2004年12月1日夕刊13面掲載

「パラサイト女性 優雅な生活遠のく――低収入、独立できず 頼りの親のスネも細る――」

坂本 和靖(財団法人 家計経済研究所 研究員)

 親元暮らしでぜいたくざんまい。こんな優雅な印象があったパラサイト女性に異変が起きている。財団法人家計経済研究所(東京)が発表した「消費生活に関するパネル調査」によると、新たなパラサイトシングルは収入不足で独立できない「やむなし派」。かつての「優雅派」も親の収入減と介護不安にさらされている。坂本和靖研究員に報告してもらった。

 パラサイトシングルとは、親と同居することで電気・ガス・水道、住居費などを節約し、その分を自分の欲しいもののために充てる、ゆとりある生活を過ごす独身者のことを指す。5年ほど前に生まれた言葉だ。ところが近年、優雅であった彼女たちの生活が一変している。

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 パネル調査は20-30代の女性(同一個人)の生活を1993年から毎年追いかけている。それによれば98年に25歳から28歳だったパラサイト女性と、2003年に同年齢だった同様の女性を比較すると、正社員として働いている人の割合が69%から59%に落ち込み、平均年収も238万円から225万円へと下がった。
 生涯所得を決定づける上で重要な学校を卒業して初めてついた仕事は、パートや派遣などの非正規社員が14%から25%に増加。従業員が500以上の企業に正社員として就職した人は34%から20%に減った。
 生活費は親におんぶにだっこという構図も崩れている。彼女たちの総支出に占める生活費(食料、家賃、光熱費など)の比率も上昇。5年前の25-28歳パラサイトが19%だったのに、今の女性は23%。逆に自由に使えるお金(被服・はき物、教養・娯楽、交際、通信)は58%から48%へと10ポイントも下がった。ニュー・パラサイト女性はけっして裕福ではないということだ。
 では、かつてのパラサイトシングルが今も優雅な生活を続けているかと言えば、答えはノーだ。03年に30-40歳の同居未婚女性の就業形態、年収を本人の10年前と比べると、年収は290万円から330万円に多少上昇しているが、正規就業率では83%から63%までに減っている。
 親と別居している同年代の独身女性の年収は296万円から453万円に増え、90%が正社員として働いている。比較すると、30代パラサイト女性の経済基盤の弱さが目立つ。
 生活が苦しくなった原因は彼女たちの就業状況だけではない。これまで頼りにしてきた親たちの収入が減っているのだ。98年に20代だった女性の親と03年に同年代の女性の親の年収を比べると、「250万円未満」の割合が12%から19%に増え、逆に「1000万円以上」の割合が24%から15%に減った。
 30代の女性は親が定年に伴い、再就職あるいは離職するため、収入が急減する。 親の年収が「250万円未満」の割合は、30歳未満では19%だが、35歳以上になると47%に跳ね上がる。

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 こうした経済的な厳しさに加え、30代パラサイト女性を襲っているのが精神的な負担感だ。結婚に際し、障害となる問題として「親に経済的援助をする」、「親の世話をする」と答えた人の割合は、30代後半に入るころから増加。30代未満では31%なのに35歳以上になると52%へ急増する。
 親と同居する未婚者の場合、ほかに親の面倒をみる兄弟姉妹がいないか、これまで親に支援してもらった手前、結婚したからと言って自分勝手に振る舞えないとの思いが強いのかもしれない。
 事実、親が65歳を過ぎると、本人の趣味娯楽時間、交際時間が減り家事時間は増えている。
 こうした傾向は、内閣府の調査(『若年層の意識実態調査』、03年、24歳-34歳の未婚男女)でも確認できる。親との同居理由は、「余裕ができ好きなことができるから」よりも、「別居に費用がかかるから」や「独立して生活していく自信がない」など理由から、やむを得ず同居している多い結果となっている。
 自活できるが、海外旅行、ブランド品購入などのぜいたくをするために親と同居するという選択は、すでに過去のものとなっている。優雅なパラサイトシングルは、ごく短い"期間限定"のライフスタイルでしかなかった。
 不況による就業環境の悪化から、親が子どもを支援する期間は延びている。ただ、今後は親世代の経済力が低下し、支援期間が短くなることも予想される。支援関係が逆転する時期が来たとき、果たして子が親を支えられるだろうかという問題が浮上している。

●この記事に関係する「消費生活に関するパネル調査」の報告書(財団法人家計経済研究所編『共依存する家計 消費生活に関するパネル調査-平成16年版- (第11年度)』)は、国立印刷局より発売中です。

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