村上 あかね(財団法人 家計経済研究所 研究員)
仕事や結婚など女性の生活設計は多様になったといわれるが、その経済的な基盤は十分だろうか。住宅所有の実態を調べた家計経済研究所の村上あかね研究員は「家の名義からみると、女性個人の資産形成はそれほど進んでいない」と指摘する。
マンションを買うシングル女性が増えたといわれて久しい。女性専用の住宅ローンも話題だ。住宅は日々の暮らしを営み、地域とのつながりを形成する生活基盤としても、財産としても重要である。自分の家があれば老後も安心だろう。
しかし住宅を含めた女性が持つ資産についての調査は、案外少ない。これまでは世帯単位で調べることが多く、世帯の内部で誰がどのような資産を、どの程度所有しているのかはブラックボックスに近かった。
そこで家計経済研究所は資産所有の現状や意識について調査を実施。全国の25-54歳の女性2205人から回答を得た。今年度末に報告書にまとめる予定だが、結果を分析してみると、自分名義(夫や親との共同名義含む)の持ち家に住んでいる女性は10.3%と、決して多くなかった。配偶者を持つ人に限っても11.1%にとどまる。
もちろん持ち家に住むか賃貸を選ぶかは、世帯の収入や子どもの有無などによって大きく左右される。それに加えて住宅取得には女性特有の壁もありそうだ。
まず働き方の違いなどによる経済力の影響。今回の調査で、有配偶者のうち自分名義の住宅に住む割合は、経営者や正規雇用に就いている人だと26.7%、自営業・自由業などでは15.8%。しかしパートなどでは7.8%、無職では7.7%だった。安定した収入がなければ、家を買っても自分でローンを組んだりして名義を持つのは難しいだろう。
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意識の壁も無視できない。「自分名義の資産(不動産・預貯金や個人年金など)を持
つことが必要だ」という問いに賛成(「そう思う」「ややそう思う」の合計)するかど
うかを尋ねてみた。すると自分名義の住宅に住む女性では賛成が80.5%だったが、そう
でない女性では71.0%と少し開きがでた。
資産形成の必要性を強く感じている人ほど、住宅を所有する傾向があるわけだ。家を
買うとき、妻が蓄えから頭金などをいくらか出せば金額に応じて共有持ち分を持てる。
しかし「専業主婦だから」といった思い込みで、夫の名義にするケースもあると聞く。
世帯単位で確実に資産を築ける人が大多数という状況であれば、女性が自分名義の資
産に思いをめぐらす必要はほとんどなかっただろう。だが晩婚化や少子化、離婚の増加
など家族のあり方が変化している現在、世帯だけでなく個人としても生活の基盤を考え
ることは重要になりつつある。
その必要性は、女性でこそ高いのではないだろうか。女性は出産などで就業を中断し
たり、その後再就職してもパート勤務などで相対的に収入が低かったりしがちだ。自分
ではゆとりを持って資産を形成するのが難しいにもかかわらず、男性に比べて平均寿命
は長く、老後にも備えなければならない。例えば離婚の場合、婚姻中に築いた財産は夫
婦共有だが、名義を持たないと勝手に処分されてしまうといった恐れもあるようだ。
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興味深いのは、住宅の所有状況が資産を持つ女性、持たない女性の格差という厳しい
現実も映している点だ。今回の調査で女性の平均貯蓄額(概算値)をみると、自分名義
の住宅に住んでいる女性は約248万円だったのに対し、そうでない女性は約130万
円と2倍近い差があった。
自分自身の経済力や意識にかかわらず、親からの援助や夫との死別による相続などで
住宅を持つ人もいるが、それは一部にとどまる。男性と比べた労働条件も急には改善し
ないだろう。女性のライフプランを考えるうえで、資産の所有状況や将来の生活に及ぼ
す影響については、もっと調査・研究が必要だと思われる。
調査では59.5%もの女性が「老後のために資産形成すべきだと思うが、何が良い方法
かわからない」と答えた。書店には投資の指南書が何冊も並んでいるが、そういった情
報を活用する人は限られる。まずは自分や世帯の資産状況、権利関係を正確に把握し、
働き方も含めた生活設計について考えることが第一歩ではないだろうか。
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