| 研究報告書一覧に戻る | 「消費生活に関するパネル調査」の報告書 |
東京30㎞圏の妻年齢35~44歳の核家族世帯の妻・夫・子を対象に、家族生活の経済的側面、行動的側面、空間的側面、意識的側面、ネットワーク面に関して調査を行い、妻の就労類型とライフステージを分析軸として、現代の家族生活における共同性と個別性の実態を明らかにした調査報告書。
本書および本プロジェクトについてのお問い合わせは、財団法人 家計経済研究所(電話03-3221-7291、FAX: 03-3221-7255、e-mail: info@kakeiken.or.jp)までご連絡ください。
要約 |
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目的と方法 |
1. 目的 2. 方法 3. 回答者の基本属性 |
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第I部 妻の就業と家族 |
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第1章 |
住まいと暮らし |
1. 部屋の数、落ち着いて手紙などを書ける場所の有無 |
第2章 |
家計とこづかい |
1. 妻の定期的収入の有無 |
第3章 |
夫妻の資産 |
1. 夫の累積収入割合 |
第4章 |
レジャーとコミュニケーション |
1. 休日の外出レジャー頻度 |
第5章 |
社会的ネットワーク |
1. 妻と夫の職場ネットワークの規模 |
第6章 |
メディアと情報 |
1. 情報機器の使用頻度 |
第7章 |
家族観と生活満足 |
1. 家族や子どもに対する考え |
第II部 子どもと家族 |
第1章 |
住まいと暮らし |
1. 子ども部屋と部屋にある物 |
第2章 |
子どものこづかい |
1. こづかいのもらい方 |
第3章 |
レジャーとコミュニケーション |
1. 休日のレジャー頻度 |
第4章 |
社会的ネットワーク |
1. 子どもと祖父母との接触頻度 |
第5章 |
母の就業に対する意識と生活満足 |
1. 母親の就業の有無 |
図表一覧 |
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調査票及び単純集計 |
本報告書は、第Ⅰ部と第Ⅱ部の2部構成となっている。第Ⅰ部では妻の就業形態別集計からみた家族生活、第Ⅱ部では回答子(対象子)の学齢別集計からみた子どもの生活について検討している。第Ⅰ部と第Ⅱ部の主な内容は以下のとおりである。
まず、第Ⅰ部第1章「住まいと暮らし」では、平日を中心とした家庭生活について検討した。ここでは、母と子の空間・時間や食生活での共同性の高さと「父親の不在」がみえる。特に、専業主婦世帯、妻パート世帯でその傾向が強い。一方、妻常勤世帯、妻自営他世帯では家族全員の共同性が高いという傾向がある。特に妻常勤世帯の夫は、最も帰宅が早く、家族全員で過ごす割合が高い。また、家事・育児の分担も多いとはいえないものの他の世帯の夫に比べて行っている方である。妻自営世帯の夫も家事を行う頻度は少ないが、子どもが幼いときの育児やその他の共同性は高い。性別役割分業が日常生活の中で家庭生活そのものの違いと関連している。
* 【図表Ⅰ-1-4, 5】
* 【図表Ⅰ-1-25】
* 【図表Ⅰ-1-26, 27, 28】
第2章「家計とこづかい」では、夫妻の収入の管理者、夫妻の収入が家族共同の家計になる割合、夫妻が自分のために使えるお金の割合、子どものこづかいに関する親の認知等について検討した。多くの先行調査が明らかにしているとおり、稼ぎ手である夫の収入を妻が預かり、収支管理するタイプが非常に多いが、妻が常勤で働く世帯ではこのタイプは相対的に少なく、家計のタイプの多様化がみられる。また、夫妻は収入の多くを共同の家計に入れているが、必ずしもすべてを入れているわけではなく、特に妻常勤世帯では夫妻ともに共同の家計に入れるお金の割合が低い。夫妻が自分自身のために使えるお金に関しては、妻の就業形態による差よりも夫妻間格差に注目した。妻が自分のために使えるお金は夫よりはるかに少なく、多くの妻はそれさえ切りつめて家計費の不足を補い、家計を維持、管理している。また、子どもにこづかいを渡す役割は妻が担うことが多く、こづかい収支も妻の方が夫よりよく認知していることも明らかになった。
* 【図表Ⅰ-2-35, 36】
第3章「夫妻の資産」では、夫妻が各自所有する名義資産割合、妻の就業形態や子どもの有無による妻の名義資産割合の違い、名義資産割合が累積収入割合や家事割合、経済的貢献を反映しているか、資産の実態を示した。また名義を重視するか、自分名義資産の処分権や相手名義資産の使用権、資産の帰属など、資産に対する考え方、夫妻各名義資産に対する考え方の違い、夫妻の認識の差を明らかにした。名義資産割合は、夫 7.6割に対し妻2.4割(妻回答)と圧倒的に夫の名義資産が多い。不動産所有では特に妻パート世帯で夫妻格差が大きい。しかし名義が重視されず、共同意識が高いため、夫妻の格差は問題視されない。名義重視派は妻で46%、夫で39%と半分に満たない。また、夫の資産に対して7割の夫妻が、妻の資産に対しても6割の夫、5割の妻が共同意識をもっている。
* 【図表Ⅰ-3-19, 20】
第4章「レジャーとコミュニケーション」では、レジャーとコミュニケーションから家族内の交流状況を検討した。レジャーについては夫妻共同のレジャーは少ないが、家族共同のレジャーは比較的多い。これらは妻就業形態により異なる。妻の就業形態別に比較すると、夫妻共同性の低い妻就業形態では共同行動希望割合が高く、実態としての夫妻共同性は低いが、希望として共同性が意識されている。また、コミュニケーションについては、多くの夫妻が会話を交わしているものの、妻自営他世帯や妻常勤世帯に比べ、専業主婦世帯や妻パート世帯の夫妻の会話は相対的に少ない。また、互いに相手の能力や努力を評価している夫妻が多いが、専業主婦世帯では他の世帯に比べ夫が妻の能力や努力を評価していない傾向にあり、妻自身も夫からの評価は高くないと感じている。なお、専業主婦の妻は夫の能力や努力に対しては他の世帯同様高く評価しており、相手の評価に夫妻間差がみられる。
* 【図表Ⅰ-4-25, 26】
第5章「社会的ネットワーク」では、夫と妻の世帯外ネットワークのうち、親族以外のネットワークの特性が、妻の就業形態と強く関連していることが明らかになった。専業主婦世帯(および妻パート世帯)では、夫のネットワークが職場に偏り、妻のネットワークが近隣や近距離の友人など居住地域内に偏る傾向が強い。一方、妻が常勤である世帯は、夫妻それぞれの職場や近隣のネットワーク規模は近似している。妻常勤世帯(および妻自営業世帯)は、専業主婦世帯(および妻パート世帯)に比べて、親密な交際相手を配偶者と共有する傾向も強い。要するに、専業主婦世帯は夫妻分離・非対称型ネットワーク、共働き世帯は夫妻共有・対称型ネットワーク、という対比が浮かび上がった。親族ネットワークについては妻の就労による差異は大きくない。
* 【図表Ⅰ-5-1, 2】
第6章「メディアと情報」では、夫と妻の情報生活世界(情報機器の使用頻度、情報収集手段、情報関心)を検討した。妻就業形態別にみた妻間の、あるいは夫間の情報生活世界の差異よりも、妻と夫というジェンダー間にある情報生活世界の差異の方が、遙かに大きいということが明らかとなった。
第7章「家族観と生活満足」では、家族観全体としては、妻より夫の方が伝統的意識があること、とはいえどの就業形態の妻も伝統的意識をもっていることが明らかとなった。また、生活満足度は総体的に高いものの、夫の楽観的な意識と妻の悲観的な意識とのギャップが現れていた。妻の悲観的意識は、自ら保持する役割意識と現実との葛藤によってもたらされていると推察され、これもまた第6章でみたように、ジェンダー・バイアスの現れと推察されよう。
第Ⅱ部、第1章「住まいと暮らし」では、学齢の上昇とともに子どもは他の家族と別行動をとる傾向があることが明らかになった。他方、家族の共同行動への志向が高い小学生の時期にも、夕食をともにしたり、就寝まで子どもと過ごす父親の少なさが目立つ。高校生は家族とは別行動をとる傾向が顕著であるが、それと同時に、個々の回答子の行動も多様になる。また、個々の家族によって共同性への志向が異なること、あるいは共同行動として重視している行動が異なることも示唆された。
第2章「子どものこづかい」では、子どもの経済状況を収支実態と家計認識から検討した。その結果、学齢上昇に伴い支出の自己管理の必要性が高まる、核家族世帯でも祖父母等と日常的に経済的な関係をもつ者が少なくない、また、学齢上昇により行動面では親との分離が進むが、子の経済状況に対する親の認知度は高校生でも高いこと、などが明かとなった。
第3章「レジャーとコミュニケーション」では、レジャーとコミュニケーションから親子の共同性を把握した。学齢別では、小学生はレジャー活動をともにする相手の多様性がみられる。親子の共同性は、学齢上昇に伴い、実態、希望ともに低下する。コミュニケーションについては、学齢があがるほど、子どもは親との会話は減少し、とくに父親と会話は少なくなっている。しかし、学齢の上昇とともに会話は減っても子どもの8割は親のことを高く評価している。
第4章「社会的ネットワーク」では、子どもの世帯外ネットワークが、子どもの学齢によって変化することが明らかにされた。第1に、別居している祖父母との接触頻度は、学齢が上がるにつれて低下する。第2に、子どもたちの交友ネットワークの規模は、小学生で最も小さく、中学生で最大化する。学齢が上がるにつれて、学校内では友人が同学年に集中するが、他校生との交際も増える。第3に、悩みをうち明ける親友は、学齢が上がるとともに増加するが、同学年にほぼ限定される。しかし、高校生になると、学校内と学校外の両方に一定数の親友をもつようになり、母親が認知していない親友も増加する。子どもたちは、成長にともない、祖父母や(母)親との関係から次第に離脱しつつ、独自の友人ネットワークを発達させている。
第5章「母の就労に対する意識と生活満足」では、全体として子どもたちは、母の就労に対して理解しており、親子関係、生活満足とも満足度が高いことが明らかとなった。しかし、就労する母の家事負担を意識しないで子どもたちは生活しており、子どもたちの高い満足度は、家族の中で自分の個別性が維持できることに対する評価ではないだろうか。つまり高い生活満足や良好な親子関係は、家族の共同性の高さを必ずしも意味しないのではないかと考えられる。
以上の結果から家族生活の共同性と個別性の実態をまとめると、まず、家族の生活はおおむね高い共同性を示していることが指摘できよう。夫妻の収入や夫の資産に対する共同意識は高く、実際に収入の多くは家族共同の家計に入れられている。月に1回以上は家族共同のレジャーを楽しみ、夫妻の会話もあり、夫妻は互いに相手の能力や努力を評価している。子の学齢の上昇とともに家族と過ごす時間や親子共同のレジャーは減少し、会話頻度も低下するが、多くの親は子どものこづかい収支を認知しており、子は親を高く評価している。親子ともに生活満足度は高く、親子関係にもほぼ満足している。
しかし、日々の食事、家事労働、社会的ネットワークに目を転ずると、性別役割分業を起因とする共同性の低さが明らかになる。性別役割分業の規範と実態が家事労働の共同性を低くし、分業に伴う夫妻の生活領域の分離がそれぞれの交際ネットワークを分断する。父親の帰宅時間の遅さは家族揃っての夕食や時間の共有、父子間の会話を困難にしている。低学齢の子は父親との時間の共有を望んでいるが、応えている父親は少ない。性別役割分業志向は夫の方が妻よりも強く、生活全般満足度も夫の方が高いことからみて、分業は主に妻の意識にネガティブな影響を及ぼしているように思われる。
性別役割分業がもたらす共同性の低さは、「性別役割分業的家族」、すなわち専業主婦世帯や妻がパートで働く世帯を、妻が常勤で働く世帯と比較すると特に顕著にあらわれる。妻常勤世帯では、共同の家計に入れず、自分個人のものとしてもつお金が夫妻ともに他の世帯に比べて多い点では個別性が高いが、他の側面では高い共同性を示している。日々の家族揃っての食事や時間の共有度が高く、夫の家事労働分担もわずかとはいえ相対的に多い。夫妻の会話も多く、交際のネットワークを夫妻が共有する程度も高い。常勤で働く妻とその夫は、家族としての、あるいは夫婦としての生活の共同性を高めようとする志向をもち、おそらく、それを実現できる環境づくりを心がけているのではないだろうか。今後も妻の就労化は進展していくと思われるが、性別役割分業を前提としたパート就労ではなく、常勤就労化が進展したとき、家族生活の共同性と個別性に大きな変化が生まれるであろうことが、当調査結果から推察できよう。